INSIGHTS — 企業診断レポートシリーズ 完成版
玄録 #061

知財経営の6つの型
Sony / Keyence / Panasonic / 信越化学 / ファナック / Apple から導いた
IP-P&L 仮称フレームワークの全体像

6社の事例分析を統合したメタ記事 — 4軸スペクトラム・学術系譜30学派・自社診断フローチャートを含む
Aegis Nova IP コンサルティング
2026年6月7日 / 推定読了時間 30分
EXECUTIVE SUMMARY / 3分で読む要旨
知財経営の6つの型とは何か

本シリーズ #1〜#6 は、Sony・Keyence・パナソニック・信越化学・ファナック・Apple の6社を、知財ポートフォリオの観点から個別に分析してきた。本稿は、これら6社の分析を統合し、知財経営の「6つの型」として体系化する。

企業代表的特徴営業利益率PSR
#1Sony縦串型半導体が3層を貫く直交構造約11%約1.0倍
#2Keyence特化(ファブレス)型単一事業×三位一体約52%約14-16倍
#3Panasonic転換型家電→BtoBへの組換え約4%約0.4-0.5倍
#4信越化学並列型5事業並列×各事業世界トップ約30%約4-5倍
#5ファナック自前主義型CNC縦串×完全自前約25-35%約5-6倍
#6Appleハイブリッド型事業階層別の最適化約30%約8-10倍

本稿が読者に提供する3つの価値

  1. 6型の俯瞰:個別記事を順に読まなくても、6型の全体像と相互関係が1記事で掴める
  2. 4軸スペクトラム:6社を「事業構造/製造体制/知財モデル/市場評価」の4軸で多次元マッピング
  3. 自社診断フローチャート:中堅企業の経営層が、7問の Yes/No で自社の型を識別できる試論的ツール(学術検証は未経)
重要な留保(4点): (1) 本稿の「6型」「IP-P&L」等は概念整理のための仮称であり業界標準ではない。 (2) 6型は代表的型であり、すべての型を網羅するものではない(家族経営型・ライセンシング特化型等は未論)。 (3) 6型は 「思考の道具」 であり、自社の戦略を縛る監獄ではない。6型に当てはまらない部分こそが自社の独自性の源泉でもある。 (4) 各社の数値は 2024-2025年期の推計 であり時点が混在する。Apple のような規模効果を持つ巨大企業の戦略を、規模効果のない中堅企業に直接適用するのは困難である。
図1:知財経営の6つの型 — シリーズ #1〜#6 一覧
6つの型 — 代表企業・定義・主要学術接続を1枚で俯瞰 #1 Sony — 縦串型 事業横断の共通技術が貫く CMOS が3層を縦串 学術接続: Chandler 1962/Penrose 1959 営利率 約11% / PSR 約1.0倍 #2 Keyence — 特化(ファブレス)型 単一事業×三位一体 ファブレス × 直販 × ソフト統合 学術接続: Nonaka&Takeuchi 1995/Davenport 1998 営利率 約52% / PSR 約14-16倍 #3 Panasonic — 転換型 事業ポートフォリオ組換え中 家電→BtoB(電池・Blue Yonder) 学術接続: Christensen 1997/Rumelt 1974 営利率 約4% / PSR 約0.4-0.5倍 #4 信越化学 — 並列型 多事業並列×各事業世界トップ 「目に見えない縦串」 学術接続: Penrose 1959/Teece 1997/Barney 1991 営利率 約30% / PSR 約4-5倍 #5 ファナック — 自前主義型 CNC縦串×完全自前主義 製造・ソフト・メンテ・部品・立地 学術接続: Coase 1937/Williamson 1985/Chandler 営利率 約25-35% / PSR 約5-6倍 #6 Apple — ハイブリッド型 事業階層別の最適化 設計自前×製造FL×PF直販 学術接続: Williamson 1985/Helfat 2000/Jacobides 営利率 約30% / PSR 約8-10倍 6型は代表的型であり、すべての型を網羅するものではない(家族経営型/ライセンシング特化型/研究機関型等は未論)。 各社の数値は2024-2025年期の推計で、本稿の分析時点も混在する。最新値は各社IR資料を参照。
6社×6型の一覧。営業利益率・PSR・学術接続を1枚で俯瞰。詳細は各個別記事へリンク参照。

序章 なぜ6つの型を提示するのか — 知財を「経営の言葉」に翻訳する試み

知財を経営課題として捉える企業が増えている。背景には3つの構造変化がある。第1に、無形資産が企業価値の大半を占めるようになったこと(S&P 500企業の市場価値に占める無形資産比率は1975年の17%から2020年には90%超と推計される[1])。第2に、AI・半導体・プラットフォーム経済の台頭で知財の戦略的価値が高まったこと。第3に、地政学的緊張により各国が知財・プラットフォーム規制を強化していること。

しかし、知財を「法務部門が管理する技術的トピック」から「経営層が議論する経営アジェンダ」に格上げするのは口で言うほど簡単ではない。本シリーズは、この「知財を経営の言葉に翻訳する」という課題に取り組むため、6社の事例研究を通じて「型」論を構築してきた。

6社の選定理由

本シリーズの6社は、結果として6社になったのではなく、型を提示するために意識的に選定した。選定基準は4点:

  1. 各型の典型例として位置づけられる(Keyence=ファブレスの典型、Fanuc=自前主義の典型 等)
  2. 公開情報が充実している(10-K/有報/業界レポート/訴訟記録等)
  3. 製造業中心(業界バイアスは限界として明示)
  4. 日米企業(欧州・中国・新興国は続編で扱う予定)

「型」とは何か

「型」は、組織の事業構造・知財ポートフォリオ・市場評価の3層を貫く設計思想を意味する。同じ「世界トップシェア企業」でも、Keyence のファブレス型と Fanuc の自前主義型では、知財の中身も経営の言葉も大きく異なる。型を識別することで、自社の現在地と目指す方向を、経営層が共通言語で議論できるようになる、というのが本シリーズの仮説である。

本稿の立ち位置:6型は 思考の道具 であり、自社の戦略を縛る監獄ではない。6型に当てはまらない部分こそが、自社の独自性の源泉でもある。読者は6型を出発点とし、自社の固有性を発見してほしい。

第1章 6つの型 — 一覧と短い定義

1.1 6型の定義(再掲)

図1を参照。詳細は各個別記事を参照されたい:

1.2 型はどう決まるのか — 経営判断と環境要因の相互作用

初期版では「型は『強み』ではなく『選択』である」と整理したが、現実には歴史的経路依存性(path dependency)で型が決まる側面も大きい。Panasonic の転換型は純粋な選択ではなく、家電市場の構造変化への対応が始まりである。Apple のハイブリッド型も、初期は Mac の自前主義から始まり、iPhone でファブレスへ、Services でプラットフォームへと、環境と判断の相互作用で形成された。

したがって本稿の立場は、「型は経営判断 × 環境要因 × 歴史的経路の相互作用で形成される」である。経営者の判断余地は存在するが、純粋な無からの選択ではない。

1.3 先行研究との対比

「企業の型」分類は経営学で広く行われている。代表的な先行研究:

先行研究分類本稿との関係
Porter (1980) Generic Strategyコストリーダーシップ/差別化/集中本稿の6型はこれを知財視点に翻訳。Keyence=差別化×集中、Sony=差別化×多角化、等
Miles & Snow (1978)Defender/Prospector/Analyzer/Reactor環境適応戦略の4類型。本稿はこれを製造体制・知財モデルの軸で再構成
Treacy & Wiersema (1995)Operational Excellence/Customer Intimacy/Product Leadership「価値原則」3類型。本稿の特化型≒Operational Excellence、ハイブリッド型≒Product Leadership
本稿の6型縦串/特化/転換/並列/自前主義/ハイブリッド上記との重複は意図的。知財ポートフォリオの構成を中心軸に置く点が独自

第2章 「型」を選ぶ4軸 — 多次元スペクトラム

2.1 4軸の定義

一方の極もう一方の極軸の意味
事業構造単一事業特化多事業並列事業ポートフォリオの幅
製造体制完全ファブレス完全自前主義内製化の深さ
知財モデル特許主導営業秘密主導公開 vs 非公開の戦略
市場評価低PSR高PSR市場による知財・成長性プレミアム
図2:4軸スペクトラム — 6社の多次元マッピング
4軸スペクトラム — 6社が単純な1次元配置では捉えられないことを示す 軸① 事業構造 特化 多事業 Keyence Fanuc Apple Sony 信越化学 Panasonic 軸② 製造体制 ファブレス 自前主義 Keyence Apple Sony Panasonic 信越化学 Fanuc 軸③ 知財モデル 特許主導 営業秘密主導 Sony Panasonic Apple Fanuc 信越化学 Keyence 軸④ 市場評価(PSR) Panasonic Sony 信越化学 Fanuc Apple Keyence 6社は4軸のいずれにも単純に1次元配置できない。Keyence と Apple はどちらも高PSRだが、製造体制では対極(ファブレス vs ハイブリッド)。 これらの「例外」こそが、4軸スペクトラムによる多次元分析の価値である。
4軸で6社をマッピングすると、各軸での位置関係が異なる。1次元の単純配置では捉えられない多次元構造が見える。
図2b:2Dマップ — 6社の多次元構造を1枚に統合(製造体制 × 事業構造 × PSR × 知財モデル)
X軸=製造体制 / Y軸=事業構造 / バブル径=PSR / バブル色=企業 + 知財モデルを枠線で表現 ← ファブレス 自前主義 → X軸:製造体制 ↑ 多事業 ↓ 特化 Y軸:事業構造 ファブレス × 多事業 自前主義 × 多事業 ファブレス × 特化 自前主義 × 特化 Keyence PSR ≈15 Apple PSR ≈9 Sony PSR 1.0 Pana PSR 0.4 信越化学 PSR ≈4.5 Fanuc PSR ≈5.5 凡例 バブル径 = PSR 小 (PSR 0-2) 中 (PSR 3-6) 大 (PSR 8+) 枠線 = 知財モデル 実線:特許主導 点線:中間 破線:営業秘密 色 = 6社識別 Sony Keyence Panasonic 信越化学 Fanuc Apple 4軸を1枚で同時可視化:X(製造体制)・Y(事業構造)・サイズ(PSR)・枠線(知財モデル)。Keyence と Fanuc は対角線上で対極、Apple は中央寄りで両者の中間。
2Dマップで 4軸を1枚に統合Keyence(左下)と Fanuc(右下)は対角線上で対極、Apple は中央寄りでハイブリッド位置を視覚化。Panasonic は右上で「自前寄り×多事業」だが PSR は最小(転換期)。

第3〜8章 6社×6型の概要(個別記事への入口)

3.1 縦串型(Sony)

Sony は (A) 第1層:コンテンツ(音楽・映画・ゲーム)、(B) 第2層:プラットフォーム(PSN)、(C) 第3層:ハードウェア(ET&S・CMOS)の3層構造を持ち、半導体技術(特に CMOSイメージセンサー)が3層を貫く縦串として機能する。「多事業 × 縦串」の構造は、伝統的なコングロマリットとも特化型とも異なる Sony 独自の事業設計である。詳細はシリーズ #1 を参照。

3.2 特化(ファブレス)型(Keyence)

Keyence は (A) ファブレス、(B) 直販、(C) ソフト統合の三位一体構造により、業界異常値の営業利益率約52%を実現する。KM学派(Nonaka & Takeuchi 1995 の SECI、Davenport & Prusak 1998 の Working Knowledge 等)と接続する「営業ナレッジ=組織知財」論を提示。詳細はシリーズ #2 を参照。

3.3 転換型(Panasonic)

Panasonic は家電中心の100年企業から BtoB 中心へ30年がかりで事業ポートフォリオを組み換え中。「棚卸→評価→4選択肢(維持・売却・廃棄・休眠)」の知財整理方法論を提示。Mintzberg(1973, 1994)の「Emergent Strategy(創発戦略)」の典型事例として再解釈できる。詳細はシリーズ #3 を参照。

3.4 並列型(信越化学)

信越化学は5事業(シリコンウエハー・PVC・セルロース・合成石英・希土類磁石)でいずれも世界トップクラスのシェア。表面的な技術内容は事業間で共通しないが、「目に見えない縦串」として4つの抽象的組織能力(プロセス化学のノウハウ・営業秘密管理・B2B認証取得能力・顧客契約管理能力)が存在する。詳細はシリーズ #4 を参照。

3.5 自前主義型(ファナック)

ファナックは製造・ソフト・メンテ・部品・立地(富士山麓)の5要素すべてを自社内に集約。CNC が事業の縦串として3事業(CNC・産業ロボット・ロボマシン)を貫く。Coase 1937/Williamson 1985 の現代事例。Apple #6 のハイブリッド型と対極ペアを形成。詳細はシリーズ #5 を参照。

3.6 ハイブリッド型(Apple)— 二重性に注意

Apple は事業階層別に異なる選択(設計=自前、半導体=設計自前+製造ファブレス、組立=ファブレス、販売=直販+小売、サービス=自前+プラットフォーム)を組み合わせる。

重要な二重性:Apple は 事業階層別にはハイブリッド型だが、製品ポートフォリオでは iPhone 集中型(売上の52%超)という二重性を持つ。「ハイブリッド」と単純に分類するのは粗雑であり、二重性として理解する必要がある。

さらに、Apple のプラットフォーム支配段階では、特許の戦略的重要性は相対的に低下し、プラットフォーム経済とネットワーク効果が圧倒的に競争優位の源泉となっている(Cohen-Nelson-Walsh 2000 の「営業秘密>特許」と整合)。詳細はシリーズ #6 を参照。

第9章 6型を貫く理論枠組 — Coase から Jacobides まで

9.1 経営層が押さえるべき5学派(実用エッセンス)

30学派の系譜(次節)は学術的に充実だが、経営層にとっては過負荷である。実用上は以下の5学派を押さえれば、本シリーズの理論的背景の8割は理解できる:

学派主著経営判断への示唆
Coase 1937The Nature of the Firm「自前 vs 外部委託」の経済理論的基盤
Penrose 1959The Theory of the Growth of the Firm企業の競争優位は「内部資源の蓄積」から
Williamson 1985The Economic Institutions of Capitalism取引コスト分析で事業境界を設計
Nonaka 1995The Knowledge-Creating Company暗黙知の組織化(特に営業現場)
Jacobides 2018Towards a Theory of Ecosystemsプラットフォーム経済のエコシステム設計

9.2 30学派の系譜(時代順)

図3:シリーズで参照した30学派の系譜 — 3つの流れに整理
3つの流れ:企業境界論/資源・ケイパビリティ論/プラットフォーム経済論 流れ① 企業境界・組織論(Coase → Chandler → Williamson → Lazonick) 「企業はどこまでが内部か」を問う系譜。Fanuc 自前主義 / Apple ハイブリッドの理論基盤 Coase 1937 Chandler 1962/77 Williamson 1985 Lazonick 1991 流れ② 資源・ケイパビリティ論(Penrose → Nelson&Winter → Barney → Teece → Helfat) 企業内資源・組織能力が競争優位の源泉。信越化学 並列 / Apple ハイブリッドの理論基盤 Penrose 1959 Nelson&Winter 1982 Barney 1991 Teece 1997 Helfat 2000 流れ③ プラットフォーム・エコシステム経済論 Katz&Shapiro → Shapiro&Varian → Rochet&Tirole → Jacobides — Apple ハイブリッドの理論基盤 Katz&Shapiro 1985 Shapiro&Varian 1999 Rochet&Tirole 2003 Jacobides 2018
3つの流れを時代順に配置。本シリーズの「型」論は3つの流れすべての現代的再解釈であり、独自の理論ではない。

9.3 Positioning School vs RBV — 2大学派の対立

戦略論の歴史において、Porter(1980)の Positioning School(外部環境に基づく戦略選択)と Barney(1991)の RBV(内部資源に基づく持続的優位)は対立する2学派として理解されてきた。本シリーズは RBV 寄りに偏っているが、Porter の Generic Strategy(コストリーダーシップ/差別化/集中)への目配りも必要:

本シリーズの「型」論は、Positioning School と RBV の現代的統合として位置付けられる、というのが本稿の自己理解である。

第10章 経営層への診断 — 自社はどの型か、どう移行するか

10.1 自社診断フローチャート(試論)

本フローチャートは試論的なツールであり、学術的検証を経ていない。同じ企業を別の質問順で診断すれば異なる型に到達する可能性もある。実際の自社診断には複合的な検討(事業特性・組織能力・時間軸・競争環境)が必要である。
図4:自社診断フローチャート(試論版・7問)
7問の Yes/No で自社の型を識別する試論的ツール Q1: 主要事業は 単一か複数か 単一 複数 Q2: 製造を内製か ファブレスか 内製 ファブレス Q3: コア技術が 深く長年蓄積か 特化(ファブレス)型 ≒ Keyence Yes No 自前主義型 ≒ Fanuc 単一×部分 ファブレス(中間) Q4: 事業間で共通技術 (縦串)はあるか? Yes No 縦串型 ≒ Sony Q5: 各事業で 世界トップシェア? Yes No 並列型 ≒ 信越化学 Q6: ポート 転換中? Yes No 転換型 ≒ Panasonic Q7 階層別? Yes ハイブリッド型 ≒ Apple :同じ企業を別の質問順で診断すれば異なる型に到達する可能性。複合的な検討が必要。中堅企業は混合型である前提で診断する。
7問のYes/Noで6型のいずれかに到達する試論的ツール。「自社は混合型である」前提で複合的に診断すべき。

10.2 型間移行の4パターン

パターン移行歴史的例移行コスト
①構築期→確立期転換型 → 縦串/並列/自前主義のいずれかPanasonic の転換完了予想(車載電池中心の並列型寄り)高(10-30年)
②規模拡大による複雑化特化型 → ハイブリッド型Keyence が新規事業を加えればハイブリッド寄りに中(5-10年)
③コア技術深化ハイブリッド型 → 自前主義型Apple が Apple Silicon で自前主義度を上げてきた(2008 PA Semi 買収以降)中(5-15年)
④多角化失敗時のリトリート縦串型/並列型 → 特化型1990年代の多角化解体(Daimler-Chrysler 2007年分離、AT&T 1984年分割等)低~中(規模次第)

10.3 中堅企業向け簡易版

中堅企業(時価1,000億〜1兆円)向けの簡易診断:6型は理想型として参考にしつつ、自社は 混合型である前提 で診断する。主軸の型を特定し、副次的な側面は補足管理。例:「我が社は主に並列型だが、新規事業はハイブリッド型として運営する」。Apple のような規模効果(時価450兆円)を持たない中堅企業に、Apple 戦略をそのまま適用するのは困難。

10.4 IP-P&L 実装の5ステップ

図5:IP-P&L 実装の5ステップ(明日から取り組める順序)
IP-P&L を自社で実装する5ステップ — 1ヶ月〜半年単位で進める Step 1 知財ポート棚卸 特許・意匠・商標・ 著作権・営業秘密の 全量リスト化 Step 2 経済価値推計 Damodaran/Brand Finance/Ocean Tomo 等の手法で推計 Step 3 事業セグ紐付 各知財がどの 事業セグメント収益 に寄与するか整理 Step 4 競合比較 同業3-5社と 知財ポートの 構成・寄与を比較 Step 5 経営アジェ化 取締役会・経営会議 での議題化、KPI 設定、定期レビュー Step 1-2 で現状可視化、Step 3-4 で戦略的位置付け、Step 5 で経営アジェンダ化。各ステップ1-3ヶ月、全体で半年〜1年が目安。
IP-P&L 実装の5ステップ — 概念から実務への落とし込み。半年〜1年で経営アジェンダ化を目指す。

第11章 シリーズの限界と次の課題

11.1 本シリーズの7つの限界(率直に明示)

  1. 6型は代表的型:すべての型を網羅していない(家族経営型・ライセンシング特化型・研究機関型等は未論)
  2. 対象が日米の大企業に偏る:欧州(Samsung・ASML)・中国(Huawei・CATL)・インド(Reliance)等の重要事例が含まれない
  3. 時系列の変遷を扱いきれていない:Apple の特許戦略変遷(#6)以外は静的分析
  4. 公開情報の制約:内部の知財戦略は別途確認が必要
  5. 規模効果の留保:Apple のような巨大企業の戦略を中堅企業に直接適用するのは困難
  6. 業界バイアス:製造業中心。SaaS・コンテンツIP・製薬・バイオ・金融・小売の事例が薄い
  7. 数値はすべて推計:原典の単純引用ではない

11.2 シリーズ続編の最優先2項目

最優先①:ハイブリッド型の別パターン(Toyota) — Apple は「設計自前×製造ファブレス」だが、Toyota は「中核内製×周辺外注」のハイブリッド。日本型ハイブリッドの典型例として、Apple との対比で論じる価値が大きい。

最優先②:中堅企業(時価1,000〜5,000億円)の事例分析 — 本シリーズの6社は大企業中心。中堅企業の知財戦略・IP-P&L の事例を3-5社追加することで、シリーズの実用性が大きく向上する。

その他検討中:欧州・中国・新興国(ASML/TSMC/Reliance 等)、業界別深掘り(製薬・バイオ・SaaS・コンテンツIP)、失敗事例・型移行失敗のケース、時系列分析。

11.3 AI 時代の6型はどう変化するか

2018年以降の経営学・知財論の最新動向(AI/ESG/データ/DAO/Web3)は本シリーズの射程外だが、6型に与える影響を簡潔に整理する:

AI 時代の6型は、「AI モデル=自前 or 外部委託」という第5の選択軸が加わる可能性が高い。続編で深掘りする予定。

結論 「型」論の意義と適用範囲

本シリーズは、Sony(#1)・Keyence(#2)・パナソニック(#3)・信越化学(#4)・ファナック(#5)・Apple(#6)の6社の事例分析を通じて、知財経営の「6つの型」を提示した。

本稿の独自貢献(4点)

  1. 30学派の現代日米事例による具体化:抽象的な経営学概念を、6社の現代事例で経営層が理解できる形に翻訳
  2. IP-P&L 仮称フレームワーク:知財を「経営の損益計算書」形式で再構成する試み
  3. 6型による日常的な経営語彙への翻訳:法務部門の専門用語から経営層の議論可能な言葉へ
  4. 自社診断フローチャートによる実用化試論:理論を診断ツールに落とし込む試み

適用範囲と留保

これらは、(A) 経営層が知財を共通言語で議論するためのフレームワーク、(B) 自社の現在地と目指す方向を識別するための診断ツール、(C) 経営学・知財論の既存学派と現代事例を結ぶ架け橋、として機能することを期待する。

ただし、本稿の留保を再掲する:

本シリーズが、知財を「法務部門が扱う技術的トピック」から「経営層が議論する経営アジェンダ」へと格上げする一助となれば幸いである。

参考文献・各個別記事へのリンク

本シリーズで参照した30学派の文献は、各個別記事の参考文献欄を併せて参照されたい。本まとめ記事は 個別記事への入口・統合 として機能する。

追加引用(本まとめ記事で新規追加)

  1. Porter, M. (1980) Competitive Strategy: Techniques for Analyzing Industries and Competitors, Free Press — Generic Strategy
  2. Miles, R. & Snow, C. (1978) Organizational Strategy, Structure, and Process, McGraw-Hill — Defender/Prospector/Analyzer/Reactor 4類型
  3. Treacy, M. & Wiersema, F. (1995) The Discipline of Market Leaders, Addison-Wesley — Value Disciplines 3類型
  4. Mintzberg, H. (1973, 1994) The Rise and Fall of Strategic Planning, Free Press — Emergent Strategy 創発戦略

免責事項:本稿は公開情報のみに基づく事例研究を統合したメタ記事です。対象6社の内部情報は使用していません。記載した数値は推計値であり、原典の単純な引用ではありません(2024-2025年期の数値が混在)。最新の正確な数値については各社公式の IR 資料をご参照ください。

「IP-P&L」「6つの型」等は概念的なフレームワークの説明を目的とした仮称であり、業界標準・確立された経営学概念ではありません。本稿で参照した学術概念は、既存学派(Coase 1937 から Jacobides 2018 まで30学派)の現代的再解釈であり、本稿独自の概念ではありません。

本稿の自社診断フローチャートは試論的なツールであり、学術的検証を経ていません。特定の投資判断・企業価値評価・経営判断の根拠として使用される場合は、別途精緻な定量分析・専門家相談が必要です。

本稿の内容について、対象6社からの監修・承認は受けていません。

企業診断レポートシリーズ — 全体マップ(17記事)

本記事はシリーズ17記事の一部です。★ メタ記事で6型理論の俯瞰、各 #1〜#16 で個別企業/業界マップ/業界深掘り/業界横断テーマを提供しています。

★ シリーズ完成版 — 統合メタ記事6型理論の全体像 #1 Sony — 縦串型CMOS が貫く3層構造 #2 Keyence — 特化型ファブレス×直販×ソフト統合 #3 Panasonic — 転換型家電→BtoB の知財組換え #4 信越化学 — 並列型5事業並列×見えない縦串 #5 ファナック — 自前主義型完全自前主義×CNC 縦串 #6 Apple — ハイブリッド型事業階層別の最適化 #7 中堅3社 — 規模効果の検証ホシザキ × イビデン × THK #8 業界マップ — 中堅15社5サブ業界の6型分布 #9 化学業界 — 中堅12社Science-based 型の多様性 #10 電子部品業界 — 中堅12社Pavitt 2類型交差点 #11 営業秘密管理 — 横断テーマ第1弾40社の業界横断分析 #12 機械要素業界 — 中堅12社Specialized Suppliers 極北 #13 海外売上比率 — 横断テーマ第2弾5類型 × 知財4手段マトリクス #14 SaaS・ソフトウェア — 中堅12社非製造業初/SaaS 5型 #15 医療・ヘルスケア — 中堅14社規制依存型 第5類型/3階層構造 #16 Toyota — 日本型ハイブリッド系列・主査・TPS の三位一体
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